私と同世代の方でブルース・スプリングスティーンを知らない方はいないのではないかと思う。
ベトナム帰還兵のことを歌った「Born in the USA」は、私の小学校高学年の塾通いの途中に、毎日好きで立ち寄った電気屋の大型テレビやレーザーティスクから流れていたのを鮮烈に思い出す。
土曜の昼は、FMのダイヤトーン・ポップスベストテンを「エアチェック」するのが最高の楽しみだった。Van Halen, Bon Jovi, Madonna, Wham, A-ha, Bryan Adams...毎週流れてくる洋楽にワクワクしたのを覚えている。
そのうちの一人が紛れもなくBruce Springsteenだった。一回聞いたら忘れないあのシャウトは、当時英語のヒアリングがろくにできない私にとっては、アメリカの国旗のマークとともに「アメリカ」のイメージを代表するような「かっこいい曲」だった。
ところが、先日深夜に車で名古屋まで500kmの道のりを向かう途中、眠気防止に聞いた長野FMが流していた、ボトルネック・ギターで演奏された弾き語りの同曲に、完全にノックアウトしてされてしまった。
あまりに悲しく、切ない響きだったからである。恥ずかしながらも、こんな深い意味を持った嘆きの歌だとは知らなかった。
キング牧師のセリフの引用の後に続けて流れてきた"The Rising"という曲に、また涙してしまった。NYCのSeptember 11の事故の際に、救出に向かった消防士が天国に向かっていく歌だ。これはまさに「天上の音楽」じゃないか!!と感動してしまった。
その勢いでApple Musicからアルバム全部をダウンロードして、今回の往復1000kmの道のりの中で何回聞き直したかわからない。彼の人生の、放蕩息子から失望、そして改めて"Surrounded by God"という言葉に象徴される、神のもとに立ち返る、そのままの証がそこには込められていた。
メディアではその興行の成功ばかりが報道され、彼の真意はほとんど語られていないようだが、紛れもない彼の等身大の「いのちの救いの物語」だ。
そして彼は、今のアメリカの憂慮すべき状況を変えていくのは、一人ひとりが"Love Reaction"を起こしていくことだ、と伝えている。
最後は自分が何度となくカトリックのスクールで叩き込まれてきた、という主の祈り(The Lord's Prayer)が朗読され、"Born to Run"で幕を閉じる。
彼はあえてintimateな空間にするために、彼にとっては「小箱」のbroadwayという場所を選んだようだ。引き語りonlyというスタイルが、また彼の本音・等身大感をリアルに伝えてくる。赤裸々に霊的救いの体験を語ってくれた彼に心から感謝した。
このライブ盤を通して、本当に私は励まされる思いがした。規模が大きくても小さくても、今できることをやり続けよ。そんなことを語られているような気がした。